無料のプレスリリースで新聞取材を獲得した老舗銭湯から学ぶ「低予算広報」のススメ

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自社広報のためにプレスリリースを配信したいと思っても、効果が出るかどうかも分からない中で予算をかけるのはためらわれると考えている方は少なくないはず。

そして、できれば無料でプレスリリースを配信したいと思うのは自然なことです。
今回は、私が実際に携わった事例を元に、できるだけ予算をかけない広報戦略について考えていきます。

そもそも無料でプレスリリースは出せる?

結論からいえば、無料でプレスリリースを出すことは「できます」。

それも、手段は一つではありません。この記事ではいくつかの方法をご紹介しますが、企業によってとるべき広報戦略は異なります。

【WEB編】と 【リアル編】に分けていくつかの選択肢をご紹介するので、引き出しとして覚えておくと良いと思います。

【WEB編】プレスリリースを無料で配信する方法

プレスリリースの画像

まずはWEB上でプレスリリースを無料配信する方法をご紹介します。

一昔前まで「プレスリリースは紙で出すもの」というイメージが根強かったものの、最近ではプレスリリースをWEB上で出せるサービスは多数あります。

そしてその中には無料で利用できるものもあるので、これからプレスリリースを配信する方は必見です。

無料で配信できるプラットフォームを使う

大手プレスリリース配信プラットフォーム「PRTIMES」や「@Press」を使ってプレスリリースを出そうと思うと、通常1配信あたり3万円程度の費用がかかります。

もちろん、それだけの費用がかかるのには理由があるのですが、それはまた別の記事で詳しく説明します。

ただ、広報にかける予算が少ない場合、プラットフォームの利用料は極力抑えたいと思うことでしょう。
そこで選択肢に挙がるのは、「プラットフォーム利用料がかからない」サービスです。

たとえば、「ツナググ」というサービスでは月間3本までプレスリリースを無料配信することができます(2023年8月現在)。

プレスリリースのためのトピック検討や原稿作成の労力を考えると、多くの企業では月3本の配信はむしろ多いまであるので、お試しでプレスリリースを配信する場として適しているでしょう。

また、無料ではなくても5,000円ほどの低価格でプレスリリースを配信できる「イノベーションズアイ」のようなプラットフォームもあります。

まとめ記事ではないので各サービスの詳細は割愛しますが、幅広い選択肢があることはお分かりいただけたはずです。

キャンペーンを利用する

通常、利用に料金がかかるプラットフォームでも、キャンペーンを利用することでプレスリリースを無料で配信できることもあります。

たとえばプラットフォーム最大手「PRTIMES」では、プレスリリースを無料で配信できるキャンペーンを実施しています。

創設2年以内のスタートアップが最大10本のプレスリリースを無料で配信できる「スタートアップチャレンジ」や、年1回「夢」をテーマにしたプレスリリースを配信可能な「April Dream」などがその例です。

それぞれ配信条件があるのですが、それを満たすのであれば配信しておくことをおすすめします。ちなみに、私たちアトリアも、「スタートアップチャレンジ」と「April Dream」の両方を利用しています。

キャンペーンの実施状況や利用条件などはプラットフォームや実施されている企画によって異なりますので、公式ページをよく確認しておくようにしましょう。

自社サイトを活用

意外と盲点なのが、自社サイト内でプレスリリースを配信する方法です。
自社サイトに記事投稿機能を持たせておけば、プレスリリースをいつでも無料で配信できるようになります。

ただし重要なのは、プレスリリースを掲載した後、その内容を多くのメディア関係者に見てもらい、取材につなげることです。

そのため、どのようにして自社サイト内にあるプレスリリースを見てもらうか、導線についても検討する必要があります。

【リアル編】プレスリリースを無料で配信する方法

キーボードを叩く手

さて、ここからは「リアル編」として、オフラインでのアプローチをご紹介します。WEBでプレスリリースを配信する機会が増えましたが、従来主流とされてきたオフラインの手法もまだまだ有効です。

「投げ込み」をする

投げ込みとは、各地にある記者クラブ(メディア担当者が複数集まる出先機関)にプレスリリースを持ち込み、配布することです。

記者クラブは行政機関や商工会議所などの機関内に設置されていることが多く、投げ込みに料金等がかかることはほとんどありません。

特に投げ込みに向いているのは、公共性の高いトピックを取り扱うプレスリリース。
記者が駐在している記者クラブもあるため、直接プレスリリースを届けられることもあります。

投げ込みを行う際、事前連絡不要の記者クラブもありますが、基本的には事前に連絡しておくのがベターです。

ちなみに、少し前までは「プレスリリースの配信=記者クラブへの投げ込み」という考え方が主流でしたが、近年はWEBサービスの活用が常識になりつつあります。労力がかかるため、最近はWEB上で完結させてしまう企業も多いようです。

直接メディア担当者にアプローチする

WEB主流の時代だからこそ、リアルのつながりは非常に重要視される傾向にあります。

それは対メディアの関係作りにもいえることです。
新聞社やテレビ関係者、webメディアの編集部など、自社のプレスリリースを取り上げてもらえそうなメディアに絞って1対1のアプローチをしましょう。

できれば部署単位ではなく、特定の人物にコンタクトをとるようにすると、プレスリリースを読んでもらえる確率が高まります。

この時、気を付けなければならないのは、関係性構築のための努力を惜しまないこと。
コピペメールを何度も送りつけていては、題材を取り上げられないどころかブラックリスト入りしてしまうことでしょう。

メディア側の事情にも想像力を働かせながら、手紙を書くような気持ちでアプローチするのがおすすめです。

プレスリリース送付時にどの媒体(メール、FAXなど)を使うかは、メディアの状況に合わせて判断しましょう。
時には封筒にA4サイズのプレスリリースを入れ、手紙を添えて出した方が良い場合もあります。

無料のプレスリリースで新聞取材を獲得した「第一敷島湯」の事例

銭湯の湯船

さて、ここからは無料でプレスリリースを打ち出して取材を獲得した第一敷島湯様(以下・敬称略)という銭湯の事例をご紹介します。なお、私たちアトリアは本件で、PRコンサルティング担当という立場で第一敷島湯のPR戦略立案を行いました。

クラファンの実施とプレスリリース配信

アトリアの本社がある兵庫県尼崎市、杭瀬地区。
その東端で100年もの歴史を紡いできたのが、老舗銭湯の第一敷島湯です。

レトロながらとても綺麗な浴室では、時間を忘れてのんびりくつろげます。(近くに寄った際にはぜひお立ち寄りください…!)

そんな素敵な銭湯さんなのですが、やはり古さゆえ設備の老朽化が深刻になり、2023年1月には配管故障の影響で浴槽がひとつ使えなくなってしまいました。

浴槽を復活させ、これからも銭湯の運営を存続させたい。そこで立ち上げられたのが、CAMPFIREでのクラウドファンディングプロジェクトです。

クラウドファンディング実施にあたり、アトリアは主にプレスリリースの配信を提案しましたが、プレスリリースの配信にかけられる予算は非常に限られており、PRTIMESの通常配信料金を支払うのは難しい状況でした。

そこで用いたのが「PRTIMESのキャンペーン」と「投げ込み」を併用する作戦です。

クラウドファンディングの募集開始日は2023年の3月24日だったのですが、1週間後の4月1日、無料で「夢を語る」プレスリリースを配信できるPRTIMESのキャンペーン「April Dream」が実施される予定だったため、最大限活用することにしました。

その時配信されたプレスリリースがこちら

配管が故障してしまって運営が難しいという側面は表しつつ、できるだけ前向きなメッセージを届けられるよう表現を工夫しています。

また、PRTIMESでのプレスリリース配信と並行して行ったのが、地元尼崎の記者クラブへのプレスリリース投げ込み。

尼崎の記者クラブに記者の方は常駐していませんが、現地で取り次ぎ担当の方にプレスリリースをお渡ししました。

プレスリリース配信後に朝日新聞から取材申し込みが

プレスリリースでの発信を実施してほどなく、第一敷島湯から「プレスリリースを見た朝日新聞の方から取材の申し込みがありました!」という嬉しい報告がありました。

他、多忙のためすぐには取材に行けないものの、落ち着いたタイミングで話を聞かせてほしいというメディアの方もいらっしゃったそうです。

朝日新聞の記事はこちら。4月5日にはもう取材に来られています…!

第一敷島湯の事例から学ぶ「低予算広報」のヒント

机上のスタンドライト

さて、ここからがこの記事で一番伝えたかった内容になります。要点を3つに絞ったので、もう少しだけお付き合いください。

広報=広告ではない

予算の有無にかかわらず、大前提として覚えておいていただきたいこと。
それは広報は広告そのものではないということです。

このあたりのお話は別の記事で詳しく話していこうと思うのですが、広告という手段が広報戦略の一部に組み込まれることはあっても、逆になることはありません。

メディアもひとつの事業者です。
そして、公共のトピックを扱うインフラ的な側面もあります。

「このトピックには価値がある」と思ってもらえなければ、プレスリリースは一蹴されてしまうのです。

低予算で広報をしたいという方の中には「プレスリリースを無料で配信すれば広告費を節約できるのでは?」という考えの方も多くいらっしゃるようです。

場合によってはそうとも言えるのですが、プレスリリースを広告として使うのはおすすめできません。
まずは広報やプレスリリースの役割をきちんと認識した上で、原稿の作成に臨みましょう。

内容と伝え方が大事

特にメディアに向けたプレスリリースを作成する際、必要になるのは目を引くデザインでも、心を揺さぶるキャッチコピーでもありません。

言い方は悪いですが、メディアが探しているのは記事や番組の「ネタ」。
報道に値する内容なのか、あくまでメディア目線で考えてみましょう。

また、取材したいと思わせるプレスリリースは、伝え方も優れているといえます。
取材がしやすい内容を記述するのはもちろん、ルールやマナーを守って発信するのが大切です。

長い期間かけてメディアとのつながりを築いていくという意識で、プレスリリース配信をはじめとした広報活動に携わっていきましょう。

コストは少なからずかかる

たしかに、プレスリリースを無料で配信することはできます。
しかし、しっかりと効果を出そうと思ったら、金銭的なコストの他にも人的コストがかかってきます。

プレスリリースの原稿を書き上げ、それを推敲し、メディアに向けて発信する。
それだけでもかなりの労力がかかるのは想像に難くないはずです。

低予算広報ではお金をかけないからこそ、それ以外のコストをかけて目標の達成を目指す必要があります。

伝えることに対する努力を惜しんでいては、メディアに刺さるプレスリリースは作れません。

大切なのは費用よりも「内容」と「伝え方」

ここまで、無料でプレスリリースを作成・配信する方法をお伝えしてきたものの、最も大切なことは「いくらかけるか」ではなく、プレスリリースの内容やメディアに対する姿勢に他なりません。

もちろん、一般的にはプレスリリースの作成や配信に費用を割いた方がメディアの目に留まりやすくなります。

しかし反対に、お金をかけなければ目に留まらないわけでは決してありません。
割けるリソースや広報戦略を元に、唯一無二のプレスリリースを作成しましょう。

もしプレスリリースのことで迷ったら、私たちアトリアのことを思い出していただけると嬉しいです…!
ここまでお読みいただきありがとうございました!

この記事を書いた人

ハテシマサツキ

広報領域を中心に活動するライター。
線香花火が好きすぎて年中常備している。